「アンドラ・モンターニュ」 オーナーシェフ 塩田光治さん
水が変わっただけで味が変わったといわれ
よくみなさんに、「ここに来たのは、やっぱり新潟の食材に惚れ込んだからなんですよね?」とか思われるんですが、実はさっきも話した通り、当初はそういう訳じゃなかったんですよ(笑)。
ただ、実際に来てみれば、いい素材はいっぱいありました。地元の方はたいしたことないとか、「ええ? そんなのがいいの?」などと思っているものでも、僕にとっては「素晴らしいな」と思うものがたくさん。逆もあるので、それは感性の違いや僕の好みもあるし、味という個人差のある世界での話ですから一概には言えませんが。
新潟にきて美味しいと思ったのが、まず大前提が「水」ですね。湧き水があちこちにあるんですよ。だから、いろいろなところに汲みに行って、お客様の水やお茶にも使うし、料理にも100%その水を使っています。「天然水をふんだんに使える」というのは、料理人にとっては宝を手に入れたみたいなものですよ。東京の時は「これぞ」というフォン(スープ)をとる時はボルヴィックをケースで買って、それでとってましたから、水だけで何千円です。でもこちらに来てからは、先日も僕、近くで230リットルの水を汲んできましたが、賽銭箱に100円入れて帰ってきました。ただみたいなもんですよね(笑)。
そうして湧き水で料理を作っていたら、渋谷のころからのお客様に何人も、「味が変わった」と言われましたね。「軽くなった」とか「エレガントになった」とか「繊細になった」とか。
でも、材料はぜんぜん変えてないんですよ。塩も変えていない、酢も、油も変えてない。なのに何故かなと考えると「水が違う」んですよね。それから、食べる時には絶対に口に空気を吸い込みますから、その匂いとかの違いも多少はあるんでしょうね。
南魚沼と周辺にはいい素材がいっぱい。
水のほかに食材として良いと思うのは、当たり前のようですが「米」ですね。
それから、春は山菜も使います。ソースにも付け合わせにも使いますよ。例えば、牡蠣とフキノトウでキッシュを作ったり、コゴミでジェノベーゼのようなものも作りますね。コゴミを塩ゆでをしてミキサーで回したものと、パスタを和えちゃうんですよ。グリーンのきれいなパスタになりますよ。オーストリアにイラクサのスープという料理があるんですけど、それを飲んだ時、ぜんぜんイラクサの味がしなくて「僕が作るならもっとイラクサの味を出すよ」と思っていたので、僕なりのイラクサのスープも作っています。
料理の付け合わせには、ハンゴンソウやウドも使います。ウドは個性が強いので、けっこう肉に合いますね。それから、ワラビでピクルスを作るとちょっとほろ苦くて酸っぱくて、ちょっとねばねばして美味しいんです。デザートも山菜で作りますよ。フキノトウでプリンもアイスクリームも作りますし、イタドリはルバーブと一緒なのでタルトを作ったりとか。
農産物なら、「石坂まいたけ」さん。天然に近い作り方している舞茸があって、それが大好きで、すごくよく使っています。あとは隣町の広神産の蕎麦粉を使う蕎麦屋があるんです。その粉がとっても香りがいいんですよ。フランス料理はもともと蕎麦粉を使うこともあるので、それを使っています。
野菜はほかに、地元で2人くらい僕にとって欲しいものを作ってくれる良い農家さんがいるんです。その人の作品があると道の駅で買っています。少しだけ農薬を作ってらっしゃるんですが、僕は安全主義者じゃなくて美味しい主義者なんで、美味しいものならちょっと薬を使っていてもOKなんです。無農薬でも美味しくない野菜はいっぱいあるんですよ。だから無農薬にはこだわらなくて、僕の舌が認めるか認めないか、それだけで考えているんです。ワインも、よく「ビオとかオーガニックは無いですか」と聞かれます。僕はオーストリアのワイン大使なんですが、オーストリアのワインはほとんどがオーガニックなんです。でもビオ認定は手間もお金もかかるから取っていないという生産者がたくさんいるんですよ。だから僕は野菜もワインも、認定とかにはこだわらずに味で選んで買っています。
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